統合失調症の症状への対応、抗精神病薬の副作用、精神科医との信頼関係、患者との関係性……。患者を支える家族の悩みは深く長期間に及びます。このブログは、妻の医療保護入院による夫の感情体験を書籍化後、支える家族にとっての精神疾患について、感じること考えることをテーマに更新しています。
著書 統合失調症 愛と憎しみの向こう側
患者家族の感情的混乱について書き下ろした本です(パソコン、スマートフォンなどで読むことのできる電子書籍)ブログ〝知情意〟は、この本に描いた体験を土台に更新されています
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精神保健福祉法改正 2014年

 平成26年4月1日、改正される精神保健福祉法に関するまとめ。
改正のポイントは大きくふたつ。

保護者制度の廃止と、医療保護入院の同意者の変更


保護者制度が廃止された
以下、旧法における“保護者”の条文がすべて削除された。

(保護者)
第二十条  精神障害者については、その後見人又は保佐人、配偶者、親権を行う者及び扶養義務者が保護者となる。ただし、次の各号のいずれかに該当する者は保護者とならない。
一  行方の知れない者
二  当該精神障害者に対して訴訟をしている者、又はした者並びにその配偶者及び直系血族
三  家庭裁判所で免ぜられた法定代理人、保佐人又は補助人
四  破産者
五  成年被後見人又は被保佐人
六  未成年者

2  保護者が数人ある場合において、その義務を行うべき順位は、次のとおりとする。ただし、本人の保護のため特に必要があると認める場合には、後見人又は保佐人以外の者について家庭裁判所は利害関係人の申立てによりその順位を変更することができる。
一  後見人又は保佐人
二  配偶者
三  親権を行う者
四  前二号の者以外の扶養義務者のうちから家庭裁判所が選任した者

第二十一条  前条第二項各号の保護者がないとき又はこれらの保護者がその義務を行うことができないときはその精神障害者の居住地を管轄する市町村長(特別区の長を含む。以下同じ。)、居住地がないか又は明らかでないときはその精神障害者の現在地を管轄する市町村長が保護者となる。

第二十二条  保護者は、精神障害者(第二十二条の四第二項に規定する任意入院者及び病院又は診療所に入院しないで行われる精神障害の医療を継続して受けている者を除く。以下この項及び第三項において同じ。)に治療を受けさせ、及び精神障害者の財産上の利益を保護しなければならない。
2  保護者は、精神障害者の診断が正しく行われるよう医師に協力しなければならない。
3  保護者は、精神障害者に医療を受けさせるに当たつては、医師の指示に従わなければならない。

第二十二条の二  保護者は、第四十一条の規定による義務(第二十九条の三又は第二十九条の四第一項の規定により退院する者の引取りに係るものに限る。)を行うに当たり必要があるときは、当該精神科病院若しくは指定病院の管理者又は当該精神科病院若しくは指定病院と関連する障害福祉サービス事業、一般相談支援事業若しくは障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律第五条第十七項 に規定する特定相談支援事業(第四十九条第一項において「特定相談支援事業」という。)を行う者に対し、当該精神障害者の社会復帰の促進に関し、相談し、及び必要な援助を求めることができる。❞

一人の精神障害者に対して、一人の保護者が選任されていた改正前の精神保健福祉法。
上記、第二十二条 から第二十二条 の二に条文化されているように次のような義務が課せられていた。
  • 精神障害者に治療を受けさせること
  • 精神障害者の診断が正しく行われるように医師に協力すること
  • 医師の指示に従うこと
  • 精神障害者の財産上の権利を保護すること
  • 回復した措置入院者等を引き取ること、および、その際に精神科病院への相談と社会復帰施設への援助を求めること
  • 医療保護入院への同意と、退院請求ができること
また、保護者には選任順位が存在していた。
第一順位 後見人または保佐人(順位変更は不可)
第二順位 配偶者
第三順位 親権者
第四順位 配偶者、親権者以外の扶養義務者のうちから家庭裁判所が選任した者

そして、これまでの保護者制度の問題点。
  • 一人の保護者のみが法的に課せられた責務を負うことは負担が大きすぎるのではないか
  • 本人と家族の様々な関係性を考えたとき、本人の利益確保を行えるのは保護者であるとは限らないのではないか
  • 精神科医療体制の充実と家族の高齢化など、現保護者制度は社会環境にマッチしているか


医療保護入院の同意者は家族等に変更された。

家族等とは、配偶者、親権者、直系血族、兄弟姉妹、裁判所に選任された扶養義務者、後見人または保佐人(後見人または保佐人がいる場合)のうち、いずれかの者を指す。
尚、該当する同意者がいない場合、もしくは全員が同意に関する意思表示をできない場合は、居住地の市町村長が同意者となることができる。

保護者制度の条文は削除されたのだから、医療保護入院に同意した家族等が入院後に特別な権利や義務を持つことはなく、選任順位もない。そして、精神保健指定医の判定があり、家族等のうち誰か一人の同意があれば医療保護入院が可能となる。
たとえば、未成年者が精神保健指定医に入院判定を受けた場合。医療保護入院の同意について、成人した兄弟がイエス、両親がノーであっても、法的には入院させることが可能となる。(ただし、親権者の身上監護権に鑑み、父母の判断を尊重するのが妥当)

医療保護入院患者への退院支援が制度化


精神科病院管理者に退院後生活環境相談員の選任が義務付けされる 
退院後の生活環境について、退院後生活環境相談員(精神保健福祉士等)は、患者ならびに家族からの相談に応じる。
退院後生活環境相談員は、退院後に利用したいと考える障害福祉サービスや介護サービスについて、地域援助事業者との連携を図りながら紹介業務を行う。

医療保護入院者退院支援委員会の設置

以下の三項目について審議を行う。
  • 医療保護入院の必要性の有無とその理由
  • 推定される入院期間の明確化
  • 推定入院期間における退院への取り組み
 入院後十日以内に精神医療審査会に提出される入院医療計画書に記載された、推定される入院期間が経過する二週間前後を目安に、退院に向けた審議会が開催される。審議会の出席者は、主治医、看護職、退院後生活環境相談員、地域援助事業者、医療保護入院者ならびにその家族の出席も可能となる。


 今回の法改正では、同意者の変更=同意者の拡大により、非自発的入院=医療保護入院がより容易に行える状況になった。つまり、医療保護入院者とは日常的に何ら接触することのないような家族等でも、精神保健指定医の入院判定さえあれば非自発的に入院させることができてしまう。また、保護者制度の条文削除により特定の一人の保護者の負担がなくなった裏側には、複数の家族等による思惑が交錯する危険性が否めない。患者目線で考えれば、非自発的入院に関係する身内が複数存在してしまうことは、一人の旧保護者の負担軽減以上に、家族内の軋轢が複雑化する要因ともなりうるのではないだろうか。旧保護者は、単なる汚れ役ではなかったはずだ。法改正は、家族であって家族でない関係さえもが存在してしまう、この時代の冷たさに追いついているだろうか?
 個別の家族関係や諸事情を持ち出せばキリのない話ではあるが、入院に関する一連の手続きの中に司法の関与がない以上、意見が分断した場合や強制入院に家族等の思惑が存在する場合の第三者による医療的、倫理的、法的な関与が必要だ。
入院とは治療であり、治療とは希望である。そこに、軋轢や思惑など邪魔以外のなにものでもない。



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5 件のコメント:

  1. ブログ拝見しました。精神障がい者の方を主とした相談支援専門員予定です。現在 就労継続支援B型(統合失調症 の陰性症状の方が主です。9のサービス管理責任者をしています。
    精神病院がいよいよ解体在宅復帰が加速です。
    精神科医ACTもなかなか進みません。
    仲間でネットワーク作りしています。
    どのような形が良いのかご指導下さい。

    返信削除
  2. 障害者を主とした相談支援専門員予定です。
    ブログで色々勉強させて頂いています。
    今回の改正は、3年後の見直しです。
    認知症者の方の相続問題が浮上しています。
    危険ハーブ者の対応も課題です。
    私の市では、在留外国人の精神障害も起っています。
    色々、課題をお教え下さい。
    地域支援ネットワーク会を立ち上げました。
    宜しくお願い致します。

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    1. それはやはり専門色を出し過ぎないことではないでしょうか? 知識偏重になればなるほど当事者にはうとましいものだと思います。もっとも、サービスを提供する側は専門色を出すほど仕事をしている気になるものですが……。

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    2. ごもっともです。著書拝見せずにコメントですみません。
      私は、福祉職でその方の健康な部分をまずみることかたと教えられましたがまだまだお仕着せがましいところがあります。医療職は、やはり病気を探すのが癖になっているようですね。どなたかが医療は、ともすれば凶器になるとか

      削除
    3. その方の健康な部分をまずみること>スバラシイことだと思います。病気はその人のゼンブではなくほんのイチブに過ぎません。――ご活躍を期待しています。

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