統合失調症の症状への対応、抗精神病薬の副作用、精神科医との信頼関係、患者との関係性……。患者を支える家族の悩みは深く長期間に及びます。このブログは、妻の医療保護入院による夫の感情体験を書籍化後、支える家族にとっての精神疾患について、感じること考えることをテーマに更新しています。
著書 統合失調症 愛と憎しみの向こう側
患者家族の感情的混乱について書き下ろした本です(パソコン、スマートフォンなどで読むことのできる電子書籍)ブログ〝知情意〟は、この本に描いた体験を土台に更新されています
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退院後に心がけた三つのこと

統合失調症患者が調子を崩さないために簡単にできる三つの心がけを紹介したいと思う。
これらは患者自らが自発的に取り組むことができると同時に、患者家族が声かけによって働きかけることもできる。いずれも、内容的には簡単なことばかり。かく言う僕らも退院後から実践してきた。とはいえ〝実践する〟と言うほど大げさな内容ではない――。

日にあたること

それがどうした?と言い返されてしまいそうなほどである。
ところが、日差しを浴びることには様々な効果があるのだ。
統合失調症の患者家族であれば何度も耳にしたことがあるだろう、神経伝達物質であるセロトニンやドーパミン。太陽の光を浴びることはセロトニンの分泌を促進してくれる。
難しい話は抜きにして、セロトニンは精神状態を穏やかにする働きがある。
朝になれば日差しを浴びる。そのために一歩外に出る、ベランダでもかまわない、庭先でも良い、玄関前でぼんやりと空を見上げるのでも良いだろう。


この、なにげない行為は精神症状の再燃を抑止する天然のクスリとも言えよう。さらに、日差しを浴びることは可能な限りの規則正しい生活にも役立つ。なぜなら、夜と昼の区別がはっきりとするからだ。
夜と昼の区別?そんなことぐらい……と、またまた言い返されてしまいそうだが、病気柄、どうしても引きこもりがちになるケースは多々あろうし、幻覚・妄想が原因で朝を迎えてもカーテンを開けることができないこともあるだろう。
個人的体験では風呂場の窓を封鎖しなければ入浴できなかったことからも、幻視や被害妄想によって外部との接触が困難な当事者にとって、カーテンを開けることにどれほど勇気が必要であるかは患者家族であれば理解できるのではないだろうか?

自発的あるいは患者家族の働きかけによって夜が明ければ朝となり日差しを浴びて穏やかに一日を過ごすことを思う当事者に、幻視も幻覚も妄想も…次第に影を薄めてゆくと、そんな気がした。

ふと、入院中の病棟を思い起こす……。
閉鎖病棟でありながらなんとたくさんの窓に囲まれていただろう。窓からはさんさんと日差しが入り込み、入院患者の憩いのスペースは日中に蛍光灯の光など不要なほど自然光があふれていたことを思い出す――そこに僕は癒やしを感じた。

ふれあうこと

二つ目は〝ふれあうこと〟である。
これは、人とのふれ合いを指す。つまり、自分以外の人間と適量のコミュニケーションを交わすことが大事だということだ。
自分以外だから相手が家族の誰かでも良いし、もちろん、通所施設などの仲間でも良い。さらには、とりたてて会話を交わさなくともコンビニで買い物をするだけでも他人とのふれ合いは実施できる。
すなわち、外に出て人々の存在感や流れを感じ知ることが〝ふれあう〟ということに値する。たとえば、ある人はいつも昼前になるとショッピング施設のベンチに座り買い物客の存在感や人の流れを感じている。ボーッとしているように見えて実は〝多くの人とふれ合っている〟のだ。
妻の場合もそうだった。退院後の地域空間には、彼女を守るべき閉鎖的環境も看護師も主治医も居ないのだから外に出るのがコワい、それが本音だった。
コンビニで買い物をするにもレジでもたつくことによって後ろの客に文句を言われるかも知れないと思えばこわい。
統合失調症患者だと言うことで無言無限の社会的偏見がこわくて外にでることをためらう。
こわさを乗り越えるには触れることが大切ではないか?
そんなことを考えた僕ら夫婦は、外に出ることに少しだけ積極的になった。
人とふれ合うことは、努力と勇気を伴って人に話し掛けることではない。ただただ人の存在に触れることだけで達成できるものなのだ。

眠ること

三つ目は眠ることである。
当たり前すぎるが、眠ることは人の健康に不可欠な要素だ。
良質な睡眠は万病に効くといっても過言では無いぐらい、睡眠は人間を芯から休めてくれる。ただし良質な睡眠を自然に得るには健常者でも苦労するのが常であろう。
それほど、眠りはストレスや健康度に反応して質が変動するものだ。
小さな子供がよく食べてよく学びよく遊んでぐっすりと朝まで眠るような…そんな理想の眠りは大人には困難なことが多いはず。

妻の場合も睡眠には苦労した。睡眠どころか入眠に苦労するのだからどうしようもない。ネットで検索すればポンと出てくるような名前の睡眠導入剤はほとんどの種類が試されたが個体差というか抵抗性というか……睡眠薬を飲めば眠りこけるような記憶はほとんどない。つまり、睡眠薬が効かないタイプの人である。

だからこそ、彼女にアドバイスしたのは既述のふたつ、日を浴びて人とふれ合うことだった。このふたつの実行に少しだけ積極的になることで、一日のメリハリが付きながら穏やかな心で日々を過ごすことができる。さらに、外に出ることは怖くはないと体験的に認識することは妄想や幻視の除去にも効果的でストレスの軽減にも効果があった。
結果、入眠困難の解消にも効果的だったのである。

健やかなる人のように、だいたい決まった時間帯に布団に潜り込めば朝まで寝てるような……わけにはいかないが、外に出て太陽を見上げ人を感じ…そんな一日を過ごした彼女は肉体的にもほどよく疲れて病状が再燃しない程度の睡眠はとれている。

さて「日を浴びて人とふれ合い眠ること」の三つは、ひとつが実施されれば残り二つも自然と実施されるような関係がある。
人とふれ合えば日に当たり、日中活動が生じた分、少しでも良質な睡眠に連携してゆく。
逆に、よく眠れればスッキリと朝を迎え自発的に太陽を見上げ…たとえば今日は作業所を休まないぞ!と小さな決意を抱くこともすばらしいことだ。

統合失調症の治療と再発防止に抗精神病薬はたしかに必要だ。だがしかし、簡単な心がけひとつで毎日は明るくなり、当事者の笑顔は患者家族の笑顔とリンクするだろう。
さあ…そんな毎日のどこに? 幻聴の声の主が忍び入るすきがあるだろうか…。



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