統合失調症の症状への対応、抗精神病薬の副作用、精神科医との信頼関係、患者との関係性……。患者を支える家族の悩みは深く長期間に及びます。このブログは、妻の医療保護入院による夫の感情体験を書籍化後、支える家族にとっての精神疾患について、感じること考えることをテーマに更新しています。
著書 統合失調症 愛と憎しみの向こう側
患者家族の感情的混乱について書き下ろした本です(パソコン、スマートフォンなどで読むことのできる電子書籍)ブログ〝知情意〟は、この本に描いた体験を土台に更新されています
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統合失調症の発症要因を追及することは不毛だ

 結果には必ず原因があるのだという考え方がある。
家庭で、職場で、学校で、社会で、普段身の回りで起こる大なり小なりの出来事には原因が存在する場合が多く、人は日常的に原因と結果の因果関係を多用しながら現状の改善と再発を防止する為に原因を見つけ分析する。
仕事のミスも学校での成績不振も原因と対策を講じることが大切で、突然の交通事故にも賠償の責任率には原因調査が不可欠。病気であっても病種により原因探しが重要な場合もある。
むしろ、日常生活で起こる問題の原因を考えないことの方が稀とも言える。

それでは、精神疾患発病の原因探しをすることはどうか?
ただし、ここでいう精神疾患というのは外因性うつ病による過労死への労災請求といったケース等を含まずに、内因性の統合失調症を取り上げての話ではある。
僕の答えはただひとつ。
何の意味も無いということに尽きる。

  内因性の病気と表現するとどうしても遺伝的要因が強調されてしまいそうだが、発症に至るには環境的要因や素質も複合的に絡み合うものであって、遺伝性だけが発症の決め手とはならないし統計的に可能性を示唆する程度のものだ。
また環境的要因についても、生まれ、生きてきた時間の中で、回避しようのない大小のストレス、就職、恋愛、結婚、子育て等、数々のライフイベントを経験するうえで発症との因果関係を何をもって特定できるだろうか?
さらに、何か特別な出来事の直後に病気の症状が表出したのだとしても、その出来事は原因と呼ぶよりは引き金となったと理解する方が妥当だろう。
そのような病気の特性から考えてみても、半ば強引に原因を特定したところで病気が良くなるのだろうか?
――ならない。
また、患者自身が現実と妄想の狭間で過去を掘り返しながら何故? と苦しんだところで症状が改善するのだろうか? それは病的な被害妄想を加担するだけの話ではないのだろうか?
統合失調症は気の持ちようでどうにかなる病気ではなく、脳の病気なのだ。

よく、育て方が悪かったから我が子が発病したのだとしてしまう話がある。
感情のやり場を失い、自責的になることで現実を解釈しようとすることは深い愛情あってのことなのだろう。
だから、発症してしまったことは仕方がないことと片づけてしまえるほど当事者の感情が単純でないことは僕自身も深く深く思うものだが、誰が悪いわけでもないんだと知ることは、せめてもの明日への一歩へつながるものだと感じている。


僕の場合、統合失調症を発症したことには原因というものがあって、婚姻後の発症であるならば夫婦関係、結婚生活自体が原因であり、つまり夫であるこの僕が発症原因であるとする義両親との間に深い軋轢が生じた。そして義両親は、そんな娘婿を育てた僕の親にも責任があるのだという考えに到達してしまう。
こんな僕を育てた責任をとれと相手かまわず狂ったように責めたてる背景には、それ以上に自分を責めた経緯があったのだろう。

勿論、僕自身にも病気になったことは仕方がないこととして感情の決着をつけられずに、強い自責の念に駆られたのは事実。
あの日あの時の夫婦の会話や、取り留めのない夫婦喧嘩が水面下で発症への引き金となっていたのではないかと苦悶する日が続いた。
隔離室に入り、ベッドに寝かされてベルトで固定されることを今すぐにでも代わってやりたい。医療保護入院により入院させたという罪悪感に似た感情にも包まれる。そして妻の瞳の奥から感じ取る、疑問と不安と敵意からは夫婦関係の危機さえも覚えた。
それでも日に日に回復していくのであれば良いが、むしろ逆を行く姿を傍観する他ない無念と無力さに説明のしようのない怒りにも包まれる。
それだけ、僕も義両親も変わり果てた妻の姿を容易く受け入れられなかったのだろう。
そこに発症の原因探しという行為が合わされば、それはもはや収拾のつかない骨肉の争いである。
そのことが特異なケースだったのかどうなのかは判断し難いが、法律家にしても病院のケースワーカーにしても両者の関係性に白黒を付けたり、関係改善を援助することは不可とされたが、結果的に両者共々が自身を傷つけ、そして互いに傷つけあい、憎しみの感情を生み出したものは、まさに発症の原因探しだった。

この病気は器具や画像を用いて治療を進めていくものでないことは言うまでもなく、一般的には薬物療法によって治療が進められるとしても薬物の効果に一定で、ある程度の約束もない。およそ、よく試される薬がマックスに到達してもだめなら違う薬を試してみてという具合に、器具や画像から示される病根に直接的治療を施す病気とはまるで違っている。
思えば、良くなるか悪くなるかなどわからないと発言する主治医の言葉は明らかに正論であって、この病気は確かにそういうものなのかもしれない。
患者の症状は病気が言わせたもの、させたものと言うが、関係する家族による原因探しにしても病気の特性に試されたようなものでもある。
原因を追究しても、このどうなるのかわからない状況は解決しない。
過去を掘り返してみても過去は変わらない。
それならば、自責的他責的なエネルギーは、状況を変えられるものに注いだ方が断然いい。例えば病気への理解、より信頼できる病院探し、家庭や地域に復帰した時に不足する支援についてなど、役所とのやりとりを伴うものには時間と理解が必要な事柄も多い。
個人的な体験に過ぎないが、病苦を抱える妻への思いを巡らす中で状況を変えられるものに意識が向かえばほんの少しずつだが病気になったことは仕方のないことだと思えるようになった。
それは、それでも妻を生んだ親なのだからと言い聞かせてきた相手に対して背を向ける後押しともなり、軋轢から次第に遠のいていったような気もする。
明けない夜が、明けるものなのだと思え始めたのもこの頃だっただろうか……

育て方が悪かったから我が子が統合失調症になった?
接し方が悪かったから配偶者が統合失調症になった?
時に何かを責めることで確かめようとする愛情。
けれども、誰も悪くはないのだ。
周囲で繰り広げられる喧噪によって、もう、それ以上に患者を苦しめてはならない。



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12 件のコメント:

  1. 私の母も統合失調症です。辛いと誰かのせいにしてしまう…ホントにまさに今、そんな感じでした。
    障害者支援施設に居るのに母親を理解してやれない…怒鳴り散らす父親の気持ちが理解してやれない…。
    そういう注意の仕方しか出来ない父親と私はぶつかり、最近は避けてました。そして父親のせいにしようとしてました。
    勉強になりました。ありがとうございました。

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  2. 無理解の渦中で混乱して疲れ果ててしまう匿名さんのお気持ちはよくわかります。
    ですが、一番気にかけてやらなければならない患者への誠意だけは見失わないようにしたいところですね。

    今、もしくは後々になって、自分が原因による家族の喧噪を知る時、患者が得る悲しみは計り知れません。

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  3. 主人が今日入院します。私が裏ですべて操ってる悪党になっているようです。病気だと分かっていても、愛する人からのひどい言葉は、やはりこたえます。

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  4. お気持ち察します。
    耐えて良くなる約束でもとりつけられようものなら、いくらでも耐えてみせるのに……
    そんなお気持ちでしょうか……?
    入院加療が始まったとのこと。退院、そしてさらに時間が経過してからだとしても、本来の面影が蘇えるといいですね。それ自体が罵声への懺悔であるかもしれません。

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  5. こんばんは。

    兄が、今入院しており、昨日初めての外出許可で、久しぶりに会いましたが、
    どう接したら良いのかわからず、とても苦しくなりました。

    13年ぐらい離れた場所で暮らしており、13年ぶりに実家に帰ってきて、帰省中に発病しました。

    何が何やら訳がわからなく、10年以上も会ってなかったので、今までのことも知らないし、
    なかなか兄妹の実感もなく、接し方がわかりません。

    一緒に暮らすことは考えられないです。

    それでも、日々考えずにはいられず、

    心がえぐられるような苦しみを感じます。

    祖母の3年間の看病と重なり、家族も疲労感いっぱいで、母も体調を壊し、休んでいます。
    受け入れるのには、やはり時間がかかりますね。

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  6. 心がえぐられるような苦しみはとても理解できます。親族とは、根拠もなく自分達を責めてしまう典型的な立場の存在だと思うからです。
    ❝時間はかかる❞と、確かに同感します。が、その先に悲観ではなく希望を持ち続けられるのかどうか?それが私達に課せられた心の持ちようではないでしょうか?
    まずは、外出、外泊、退院……、ひとつづつ目先の進展が順調に進まれることを陰ながら応援しています。

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  7. はじめまして
    夫が統合失調症です。
    薬を服薬せず再発し、その後入退院を繰り返しています。
    幸い夫の両親、医師はとてもよく対応してくれています。

    夫の事をとても愛していますが、妄想が酷く私に悪意があると言います。
    他の方のコメントにもありましたが愛する人から暴言を吐かれるのはつらいですね・・・
    すべては病気が成せる技なのですが私と一緒にいることによって、妄想が出るのなら嫌ですが
    離婚したほうがいいのかと考えてしまいます。

    医師は特に身近な人に妄想がでてしまうけど、サポートできるのも身近な人のみなので
    頑張って下さいと言ってくれました。
    奥さんは頑張っていると思いますとも言ってくれました。

    一日でも早く患者、家族が幸せに暮らせる日が来ることを祈るばかりです

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    1. 患者の状態は違えど、同じ立場に身をおく者として奥様は頑張っておられると強く感じます。それだけに、ご主人からの敵意を受け止めることの強烈な辛さは、悲しいほどわかります。敵意の対象が最も身近な存在、つまり配偶者に向けられるのは僕らも同様でした。辛いですよね…悲しいですよね…悔しいですよね…ですが、その敵意は人としての敵意ではなく、全て病像によるものです。心因的なメンタル不全と違って、ゆみさんが仰るとおりで統合失調症の病像は、まさに病気が成せる技だと思います。
      服薬へのモチベーションを維持するには訪問看護なども巻き込み、使える資源は存分に利用することもひとつの考え方です。僕もそうでしたが、他人に対しては案外素直だったりすることが多いですから…。

      削除
    2. はるとさん返信ありがとうございます。
      おっしゃる通り他人に対しては素直に対応しています。
      医師に対しても素直に症状を報告するので夫も病状を認識しているのかと思います。
      ただ、現実と妄想が区別がつかず苦しんでいて、妄想対応に夫も私も苦しんでいます。

      こちらのサイトを拝見しましたが、はるとさんの奥様に対しての愛情を深く感じます。
      奥様は調子はいかがですか?

      削除
    3. >現実と妄想が区別がつかず
      まさに、それこそが病的体験であり、だから治療が必要なのであって、そして薬物療法を行っている……。医療関係者は、このように客観的な冷静さをもって対応できるのですが、家族の立場はそれがなかなか難しいものですよね。ちなみに、妻の場合も暴力、妄想、幻聴、幻視、言葉のサラダに希死念慮。何でもありのお手本のような重篤さでしたが、現在は全ての症状が消失しました。大丈夫。必ず良くなるはずです。ですが、入退院の繰り返しは気になりますよね。発病の原因を考えることは無意味ですが、入退院を繰り返してしまう原因については考えるべきだと思います。また、服薬管理に不安があるのなら、通院時に注射剤を使用するだけで長時間薬効が持続されるタイプの薬も登場しています。もっとも、それは治療者と相談すべきことですから、参考程度ということで。
      とにかく今は、妄想が軽症化して、しっかりと脳を休ませてあげたいですね。陰ながら応援しています、頑張ってください。――踏ん張りどきです。

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  8. 娘が統合失調を発症、母親である私のふがいなさと仕事に忙しく気が付かなかったことを夫に責められます。
    夫のコトバのひとつひとつに深く傷つき、私自身が育児ノイローゼだとかいろいろ言われています。
    笑顔をみせてくれる娘がかわいいのですが、夫へ笑顔が向けられません。
    いつか一緒に笑える日がくるといいのですが。。。

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    1. ひとつアドバイスできることがあるとすれば、お母様のせいで発病したのではないという真実を第三者の口からお父様に告げてもらうことです。第三者とは、病院に勤務する精神保健福祉士となります。たとえば、治療に必要な家族の理解と称してケースワーカーに呼び出してもらう……。そして、そのような場を利用して、それとなく、育て方と発症の因果関係は無いことについて触れてもらう。さらに、今、家族に必要な考え方について諭してもらうということ。このことが、シナリオ的に仕組まれた場であってもかまいません。まずは、お母様がケースワーカーに相談を持ちかけ、あとのシナリオはケースワーカーに任せてみる。
      それで良いのだと思います。お父様の世代によっては、話の筋さえ通れば案外簡単に考え方が変わるということもあります。責めることから生まれるものは何ひとつありません。

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