平成25年6月13日成立、同6月19日に交付された❝精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部を改正する法律の概要❞では、保護者制度の廃止についても大事なポイントとして取り沙汰されている中、過去記事、医療保護入院が変わるでは、現在の保護者制度に関係した者の一人として私的なケースを持ち出しながら、今後の変更点を略筆しました。
さて、厚労省による精神障害者に対する医療の提供を確保するための指針等に関する検討会による発表資料には、医療保護入院における家族等の同意に関する運用の考え方の骨子案が新たにアップされていたので、さらにまとめておきたいと思います。
医療保護入院とは、精神保健指定医1名による診断と共に家族等の同意があれば、患者本人の同意なく精神科病棟への入院を決定すること。これについて、表記の部分で現在の保護者から家族等へと変更されるとしても、入院までの流れはイメージ的に大差ないものだと思う。
精神保健指定医「――入院が必要です」
付き添いの家族等「……わかりました」
平たく言えば、診察室でのこんな会話のやりとりで閉鎖病棟への入院が決まる。疾患の特性上、特に画像や機器を用いた診断データに基いて具体的な治療目標とともに示される入院加療の必要判断でもなく、精神症状によって思考や判断力のまとまりを欠いた患者の意思とは無関係に閉鎖病棟での入院生活が始まるというものである。ただし、患者の意思とは無関係にと言っても意思自体が意思でない病態を呈しているからこそ、精神科医療特有の医療保護入院や措置入院という制度が存在するのは言うまでもない。
だから、極端な客観論によって無理やり入院させられたというような理解が横行してしまう場合も少なからずあるだろうが、適切なタイミングで、時に過酷とも言えるであろう医療へのアクセスが実現されることにより、病像による患者の苦しみが少しでも早く消失することを願うことは、治療者や家族を問わずに関係する誰もが願うところではあるはずだ。と同時に、急性期症状の激しい患者にも権利というものがあることは誰が否定できるものでもないにしても、少しでも早く治療が進むことによって得られるかもしれない良好な予後は、患者の退院後、社会での権利を遠巻きに擁護してやることにも繋がるものだと思う。
そのように考えると法改正の趣旨とされる、適切な入院医療へつなぐこと、家族に対する十分な説明と合意、患者の権利擁護を確保することの三つのポイントはあらためて頷けるものであるし、全ては患者のために、愛する家族のために……激しい急性期という局面に対抗できるのは権利でもなく愛情でもなく薬物療法しかないことは、現時点での❝現実❞ではないだろうか?
ところで、骨子案には医療保護入院の厳格な適用という点で「医療保護入院は、本人の同意を得ることなく入院させる制度であることから、その運用には格別の慎重さが求められる。本人の同意が求められる状態である場合には、可能な限り、本人に対して入院医療の必要性等について十分な説明を行い、その同意を得て、任意入院となるように努めなければならない」とあるが、体験上で知りうる範囲では入院形態によって行動制限等の処遇に違いが生じる以上、表向きに任意入院に務めたとしても入棟後に入院形態を切り替える作業が可能なのだから、医療保護入院患者数の統計値を見据えた厳格性であれば御免被りたいと感じるのは一家族としての感情ではある。
――以下、本題に戻り、家族等の同意の原則的な運用についての骨子案より
家族等の同意の原則的な運用
- 医療保護入院においては、その診察の際に付き添う家族等が、通例、当該精神障害者を身近で支える家族等であると考えられることから、精神科病院の管理者は、原則、診察時の患者に付き添う家族等へ入院医療の必要性等について十分な説明を行い、当該家族等から同意を得ることが適当である。
- 管理者が家族等の同意を得る際、当該家族等の氏名、続柄等を書面で申告させ確認する。また、可能な範囲で運転免許証や保険証等の提示による本人確認を行うことが望ましい。
- 管理者が家族等の同意を得る際に、後見人又は保佐人の存在を把握した場合には、これらの者の同意に関する判断を確認することが望ましい。
- また、管理者が当該精神障害者が未成年である場合の親権者から同意を得る際には、民法第818 条第3項の規定にしたがって、原則として父母双方の同意を要するものとする。
医療保護入院時に家族等の間の意見が一致していない場合
- 精神障害者に対する医療やその後の社会復帰には家族等の理解と協力が重要であることを踏まえると、医療保護入院はより多くの家族等の同意の下で行われることが望ましい。このため、管理者が医療保護入院の同意についての家族等の間の判断の不一致を把握した場合においては、可能な限り、家族等の間の意見の調整が図られることが望ましく、管理者は必要に応じて家族等に対して医療保護入院の必要性等について説明することが望ましい。
- 管理者が家族等の間の判断の不一致を把握した場合であって、後見人又は保佐人の存在を把握し、これらの者が同意に反対しているときには、その意見は十分に配慮されるべきものと解する。
- また、管理者が家族等の間の判断の不一致を把握した場合において、親権を行う者の同意に関する判断は、親権の趣旨に鑑みれば、特段の事情があると認める場合を除き、その判断は尊重されるべきものと解する。
医療保護入院後における入院に反対する家族等への対応
- 医療保護入院後に管理者が当該入院に反対の意思を有する家族等(医療保護入院の同意を行った家族等であって、入院後に入院に反対することとなったものを含む。)の存在を把握した場合には、当該家族等に対して入院医療の必要性や手続の適法性等について説明することが望まれる。その上で、当該家族等が依然として反対の意思を有するときは、管理者は、都道府県知事(精神医療審査会)に対する退院請求を行うことができる旨を教示する。
そう言えば、離婚紛争に絡んで医療保護入院を利用した悪意と、それを見抜けなかった一部の医療機関側の緩さがあぶりでた事件があったが、医療保護入院の本質的な目的から外さない為の医療側のスタンスを締め直すことも含めて、運用方法の見直しは同様の事案を再発させぬには大事な部分でもあると思う。
そして、何よりも大切なことは思考や行動の統合性が失われてしまった統合失調症患者が、医療へのアクセスによって「回復と社会復帰」という結果を得ることに尽きる。
法律や世間の認知がどのように変わろうが、当事者の笑顔抜きで語れるものなどありはしない。
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