バレンタインデーが過ぎ、書きとめておきたいことがある。
妻との結婚後、およそ20年が経過しようとしている。
結婚してからというもの、出産、子育て、仕事のこと……。
誰もが経験するような、あたりまえで平凡なライフイベントは僕らにも有った。
そうはいっても僕らの生活には、妻の精神疾患が家族生活に及ぼす問題の内側に、子育てや仕事といったライフイベントの存在があったように感じている。
だから、ひとつ屋根の下で暮らす家族が幸せとか喜びとかの気持ちを感じるためには、外側に居座り続ける“精神疾患が家庭に及ぼす問題”が膜となるフイルターを上手に透かしこみながら“自分たちなりの幸せ”を追いかけてきたように思う。
そう、つまり幸せというものはいつも、不安とか失望とか憤りの感情の先にあるものだとして、現在進行形ではなく追いかけるものでしかなかった。
まだ、精神症状が華々しく出現する以前のこと。
小さかった子供たちと約束していた家族行事を、気分ひとつで取りやめたことは数知れず。
不特定への被害妄想が亢進すると、最も身近な存在である僕への敵意に様変わりする。
罵声。それが病気の言わせたものだとは、うんざりするほど頭に叩き込んだ。
夜遅くに仕事を終え、家路につく頃。妻からのメールを開くと「帰ってくるな」と打たれている。仕方がない……。家の近所に車を止めると、夜空を仰いで時間を稼ぐ。もういい頃だろうと、おそるおそる玄関を開けるとまだ10分早いと責め立てられる。
病気になったことには原因があるとする義両親の感情は、妻の被害妄想に加勢する。それがエスカレートすれば、離婚しなければ病気は治らないと、書いては破りを2回ほど繰り返した離婚届。
そうかと思えば、波さえ静まればどこからどう見ても仲むつまじい夫婦であったりもするのだから不思議なものだ。
幻聴、幻視、興奮。統合失調症の陽性症状が一気にあふれでた結果の医療保護入院。
何ヶ月たっても収まらない病勢と抗精神病薬へ示す耐性。担当医からは、年中、隔離室を出たり入ったりするかもしれない予後不良患者と見立てられた。
面会に行くと、入院させたことによる敵意を目つきと言動により受け止める……。
ギリギリの感情を支えたものは、口を利いたことがあるわけでもない全国100万人の統合失調症患者家族の存在と、どこからどう見ても仲むつまじい夫婦であった時の彼女のすてきな笑顔。いや、それよりももっと強いエネルギーがあったはずだが、今のところ、うまく書くこともイメージすることも難しいような、そんな気がしている。
転院、回復、退院。そして家庭への復帰。金銭管理も服薬管理もでき、安全な生活をおくることができている。
穏やかに過ごす日常……、どこの誰ともわからぬ幻聴の声は消え、家族の笑い声が聞こえ始めた。だとしても、過去とは変わるものでも忘れられるものでもない。けれど、それは妻とて同じことなのかもしれない。
春を待つ一日、都心でも雪が舞ったこの日はバレンタインデー。
「パパ……これ……」
「ん……? ありがとう」
妻のくれたチョコには“感謝”と文字入れされていた。
統合失調症の症状への対応、抗精神病薬の副作用、精神科医との信頼関係、患者との関係性……。患者を支える家族の悩みは深く長期間に及びます。このブログは、妻の医療保護入院による夫の感情体験を書籍化後、支える家族にとっての精神疾患について、感じること考えることをテーマに更新しています。
著書 統合失調症 愛と憎しみの向こう側
患者家族の感情的混乱について書き下ろした本です(パソコン、スマートフォンなどで読むことのできる電子書籍)ブログ〝知情意〟は、この本に描いた体験を土台に更新されています
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涙ぐむほど、うれしい気持ちになりました。
返信削除感動しました。こういうお話が同じような立場の人たちの励みになるといいと思う。
返信削除はじめまして、こんにちは
返信削除僕も17歳の時に統合失調症になり、今年で病歴12年目を迎えます
主の奥さんとは違う境遇ですが、共感できるところもあります
僕の場合は、原因不明で何を言っても聞いてもらえず、幻聴、被害妄想、思考伝播などがありました
初期の頃は、家で暴れることもしばしば、今も家のあちこちの壁に穴が開いています
今は僕も落ち着いていますが、この病気は一生付き合っていくもの
奥さんも、多分まだ幻聴や被害妄想があると思います、今はそれを上手くコントロールしているんだと思います
これから、家族みんなで仲良くやっていけるといいですね。
私も統合失調症です。37才で発病して現在45才になります。結婚20年になります。入院2回で1回目は任意入院2回は強制入院隔離病棟に入院しました。現在は社会復帰を目指して精神障害者施設にかよっています。未だに被害妄想、幻聴の症状は残っています。妻とこどもには感謝もことばしかありません。これからもよろしくお願いします!
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